2025.04.04
1. 任意後見契約の活用方法
山田さん(70歳・男性):「最近、物忘れが多くなってきました。認知症になったときのために何か準備できることはありますか?」
専門家:「それなら、任意後見契約 を結んでおくのが有効です。」
任意後見契約とは?
- 自分が認知症などで判断能力を失った場合に備え、事前に信頼できる人(任意後見人)を選び、財産管理や介護の手続きを任せる契約。
- 判断能力がしっかりしているうちに契約を結び、判断能力が低下したときに効力を発揮する。
- 成年後見制度の中で「本人の意思で契約できる」という大きなメリットがある。
任意後見契約の主な内容
✔ 財産管理(預貯金・不動産の管理、年金の受取手続きなど)
✔ 介護施設の入居手続きや費用支払い
✔ 医療・介護サービスの契約や手続き
✔ 身の回りの生活支援(生活費の管理、公共料金の支払いなど)
任意後見契約を結ぶタイミング
判断能力がしっかりしているうちに契約を結ぶことが必須!
40~60代:「将来の認知症リスクに備えて、早めに準備を始める」
70代以降:「物忘れが増え始めたら、早急に契約を検討する」
任意後見契約が発動する流れ
①契約締結(元気なうちに公正証書で契約を結ぶ)
②判断能力の低下(医師の診断を受ける)
③家庭裁判所が任意後見監督人を選任(不正を防ぐため)
④任意後見人が正式に業務を開始(財産管理・介護手続きなど)
⑤本人が亡くなるまで契約が継続(死亡後は遺産管理人に引き継ぐ)
事例:田中さん(72歳・女性)のケース
田中さんは 一人暮らし で、自分の将来の財産管理や介護について不安を感じていました。そこで、信頼できる甥(Bさん)を 任意後見人 に指定し、将来認知症になった場合に備えて 任意後見契約 を締結しました。
判断能力が低下した後、甥が代わりに介護施設の入居契約を進めた。
年金や預貯金の管理をスムーズに行い、無駄な出費を防げた。
任意後見契約書のサンプル
以下に、任意後見契約書の一例を示します。
**任意後見契約書**
**第1条(契約の目的)**
甲(委任者)は、乙(受任者)に対し、将来、甲が精神上の障害により判断能力が不十分な状態になった場合に備え、甲の生活、療養看護および財産管理に関する事務(以下「後見事務」という)を委任し、乙はこれを受任する。
**第2条(契約の効力発生)**
本契約は、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時から効力を生じる。
**第3条(後見事務の範囲)**
乙が行う後見事務の範囲は、別紙代理権目録に記載する事項とする。
**第4条(任意後見監督人の選任請求)**
甲または乙は、甲の判断能力が不十分な状態になったと認められるときは、速やかに家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任を請求するものとする。
**第5条(報酬)**
乙が後見事務を行うにあたり、甲は乙に対し、月額○○円の報酬を支払うものとする。
**第6条(契約の終了)**
本契約は、以下の事由により終了する。
1. 甲の死亡
2. 乙の死亡または任意後見人としての職務の継続が困難となったとき
3. 甲と乙の合意による解除
**第7条(その他)**
本契約に定めのない事項については、甲乙協議の上、定めるものとする。
以上、本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙各自署名押印の上、各自1通を保有する。
令和○年○月○日
甲(委任者):________(署名・押印)
乙(受任者):________(署名・押印)
任意後見契約書の作成にあたっては、専門家に相談し、公正証書として作成することが推奨されます。また、任意後見契約は家庭裁判所への任意後見監督人の選任申立てが必要となり、選任後に効力が発生します。
田中さんのケースのポイント
1. 判断能力が低下する前に契約を締結
田中さんは 元気なうち に 公正証書で任意後見契約を締結 し、将来の備えをしました。
2. 甥を後見人に指定
田中さんには 実子がいない ため、信頼できる甥のBさんを 任意後見人 に指名しました。
3. 財産管理と介護契約を明確化
- 生活費・医療費・介護費用の支払い を任せる
- 介護施設への入所手続き を代行してもらう
- 銀行預金や不動産の管理 を任せる
4. 家庭裁判所の関与
- 判断能力が低下した後、家庭裁判所が 任意後見監督人 を選任
- 監督人が 甥(Bさん)の財産管理をチェック し、不正を防止
任意後見契約を活用するメリット
認知症になる前に、自分の意志で後見人を選べる
財産管理や医療・介護契約を信頼できる人に任せられる
家庭裁判所の監督が入るため、不正が起こりにくい
「元気なうちに準備することで、将来の不安を軽減できます!」
「元気なうちに契約を結んでいたので、スムーズに対応できました!」
2. 任意後見制度と家族信託の違い
家族信託と任意後見制度は、それぞれ異なる特徴とメリットがあります。目的や状況に応じて、適切な制度を選択することが重要です。場合によっては、両者を併用することで、より包括的な財産管理と身上監護を実現することも可能です。家族信託では家庭裁判所の関与がなく、家族間の契約によって柔軟な財産管理が可能です。
項目 | 任意後見制度 | 家族信託 |
開始時期 | 判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してから開始。 | 契約締結時から開始し、判断能力があるうちから財産管理が可能。 |
目的 | 身上監護(生活・医療・介護のサポート)と財産管理。 | 主に財産管理や資産承継。 |
家庭裁判所の関与 | 任意後見監督人の選任・監督を通じて関与。 | 関与しない。 |
財産管理の柔軟性 | 本人の財産は現状維持が原則で、積極的な運用や組み替えは制限される。 | 信託契約に基づき、柔軟な財産管理や承継が可能。 |
身上監護権 | 任意後見人が持つ。 | 受託者は持たない。 |
任意後見制度では、家庭裁判所が任意後見監督人を選任。
3. 介護に関する事前の話し合いポイント
どのような介護を望むのか?(自宅介護か、施設介護か)
介護費用はどう確保するのか?(年金、貯蓄、保険など)
介護するのは誰か?(配偶者か、子どもか、施設か)
介護施設の種類と特徴
- 在宅介護:「自宅で介護サービスを受ける」
- 有料老人ホーム:「手厚い介護が受けられる」
- 特別養護老人ホーム(特養):「公的施設で費用が安いが、入居待ちが長い」
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住):「自立できる高齢者向け」
3. 再婚・事実婚での介護負担の分担と対策
再婚相手に介護を期待できるのか?(子どもと配偶者の役割分担)
事実婚の場合、法的な介護義務がないため契約で明確にする
介護費用の負担割合を決める(年金・資産の使い方)
事例:再婚後の介護負担をめぐるトラブル
事例:再婚した高橋さん(75歳・男性)
「再婚相手に介護を頼るつもりだったが、相手が負担を嫌がり、子どもとも対立。」
どうすればよかった?
✔ 結婚時に介護の方針を明確に話し合っておくべきだった。
✔ 財産管理契約や任意後見契約で、介護費用の負担を明確にしておけばよかった。
4. まとめ:安心して介護を受けるために
任意後見契約を活用し、認知症になっても安心できる仕組みを作る
介護の選択肢(自宅 or 施設)を家族と話し合う
再婚・事実婚の場合は、介護負担の分担を明確にする