2025.08.01
目次
なぜシニア世代の新しいパートナーシップに家族信託が必要なのか
「再婚したいけれど、お互いの老後の生活費や介護のことを考えると不安で…」
「事実婚を選んだけれど、パートナーが認知症になったら誰が財産管理をするの?」
これらは、シニア世代の再婚・事実婚を検討されている方から実際によく聞かれる声です。人生100年時代において、60代、70代からの新しいパートナーシップは珍しくありません。しかし、若い頃の結婚とは異なり、お互いの老後生活、認知症リスク、そして複雑な家族関係への配慮が必要になります。
そこで注目されているのが「家族信託」です。家族信託を適切に活用することで、税負担を最小限に抑えながら、再婚・事実婚におけるさまざまな不安を解消し、安心して新たな人生を歩むことができるのです。
家族信託とは何か?基本的な仕組みを理解する
家族信託とは、財産を持っている人(委託者)が、信頼できる人(受託者)に財産の管理を託し、指定した人(受益者)のために財産を管理・活用してもらう制度です。
重要なポイントは、財産の名義(所有権)は受託者に移りますが、その財産は受益者のために使われるという点です。受託者は、受益者の生活費や医療費、介護費などの必要な支出のために財産を使う役割を担います。
【基本的な関係図】
委託者(財産の所有者)
↓ 財産管理を託す
受託者(財産管理をする人)
↓ 財産を活用・給付
受益者(財産を使ってもらう人)
認知症対策としての家族信託
特にシニア世代の再婚・事実婚において、家族信託は認知症への備えとして重要な役割を果たします。
【認知症になる前】
委託者が自分の財産を受託者に預け、信託契約を結ぶ
【認知症になった後】
受託者が委託者(受益者)の代わりに財産管理を行い、生活費・医療費・介護費などを支払う
従来の財産管理との違い
従来の財産管理では、本人が認知症になると銀行口座が凍結され、家族でも自由にお金を引き出せなくなります。成年後見制度もありますが、裁判所の監督下で制約が多く、柔軟な財産活用は困難です。
家族信託であれば、本人の判断能力が低下しても、受託者が継続して財産管理を行えるため、生活費や医療費、介護費などを滞りなく支払い続けることができます。
※なお、信託財産から運用益が生じた場合は、それも信託財産に組み込まれ、受益者のために使われます。しかし、家族信託の主な目的は財産の運用ではなく、認知症等で判断能力が低下した際の財産管理の継続にあります。
再婚における家族信託の活用事例
事例1:再婚夫婦の老後生活費確保と税務対策
登場人物
• 太郎さん(75歳):再婚、総資産6,000万円
• 花子さん(70歳):太郎さんの新しい妻(結婚3年目)
• 一郎さん(45歳):太郎さんの前妻との子
• 二郎さん(42歳):太郎さんの前妻との子
課題と不安
太郎さんは花子さんとの再婚生活を大切にしたいと考えていますが、以下のような不安を抱えていました。
1. 認知症になったら誰が財産管理をするのか
花子さんも高齢で、将来的に財産管理が困難になる可能性
前妻の子どもたちに管理を任せるのは、花子さんが気を遣う
2. 花子さんの老後生活費を確実に確保したい
太郎さんが先に亡くなった場合の花子さんの生活資金
前妻の子どもたちとの相続争いを避けたい
3. 税負担を最小限に抑えたい
贈与税の発生を避けたい
相続税の配偶者控除を活用したい
税務を考慮した家族信託による解決策
太郎さんは税理士と相談し、以下のような家族信託を設定しました。
【家族信託の設定】
• 委託者: 太郎さん
• 受託者: 長男の一郎さん
• 信託財産: 3,000万円(預金・有価証券)
• 第1受益者: 太郎さん(生存中)
• 第2受益者: 花子さん(太郎さん死亡後)
• 給付内容
太郎さん生存中:医療費・介護費用として実費支給
太郎さん死亡後:花子さんに月額12万円を支給
【生命保険信託の併用】
太郎さんは生命保険信託も別途契約しました。
• 保険金額: 1,500万円
• 受益者: 花子さん
• 信託銀行: △△信託銀行
• 給付方法: 太郎さん死亡後、月額8万円を花子さんに支給
【統合的な生活保障の仕組み】
太郎さんの死亡後、花子さんは以下の収入を得られます。
• 家族信託からの給付:月額12万円
• 生命保険信託からの給付:月額8万円
• 遺族年金:月額約10万円
• 合計:月額30万円
【信託期間について】
家族信託は信託財産が枯渇するまで継続されます。
• 信託財産3,000万円÷月額12万円=約20年8ヶ月の給付期間
• 生命保険信託1,500万円÷月額8万円=約15年7ヶ月の給付期間
花子さんが85歳まで生存した場合を想定すると、家族信託は90歳頃まで、生命保険信託は85歳頃まで給付が継続される計算です。信託財産が枯渇した後は、遺族年金のみとなりますが、その頃には介護施設入居等で支出も変化している可能性があります。
成年後見制度との違い
• 成年後見: 本人の判断能力低下後、裁判所の監督下で必要最小限の支出のみ
• 家族信託: 事前に定めた範囲内で、柔軟な財産活用が可能。信託財産の範囲内での給付
この設計により、花子さんの生活保障と前妻の子どもたちへの最終的な財産承継を両立させることができます。
事実婚における家族信託の活用事例
事例2:事実婚カップルの生活費確保と認知症対策
登場人物
- 健太さん(72歳): 元会社役員、総資産4,500万円
- 美代子さん(68歳): 健太さんと8年間事実婚
- 健太郎さん(44歳): 健太さんの甥(信頼できる親族)
事実婚特有の法的リスク
事実婚の場合、法律上の配偶者ではないため、様々な権利が制限されます。
- 相続権がない
- 医療同意権がない場合がある
- 財産管理権がない
- 遺族年金の受給に制限がある
事実婚における家族信託による解決策
健太さんは以下のような家族信託を設定しました。
• 委託者: 健太さん
• 受託者: 甥の健太郎さん
• 信託財産: 2,500万円(預金・有価証券)
• 第1受益者: 健太さん(生存中)
• 第2受益者: 美代子さん(健太さん死亡後)
給付内容
-
- 健太さん生存中:生活費・医療費・介護費用として実費支給
- 健太さん死亡後:美代子さんに月額10万円を支給
【生命保険による追加保障】
健太さんは既存の生命保険1,500万円の受取人を美代子さんに指定しています。事実婚のため相続税の非課税枠は適用されませんが、確実な資金確保手段として活用できます。
【遺言による補完対策】
残りの財産500万円については、遺言により美代子さんに遺贈します。美代子さんは法定相続人ではないため相続税の二割加算が適用されますが、確実に財産を取得できます。
美代子さんの生活保障の全体像
健太さんの死亡後、美代子さんは以下の収入・資産を得られます。
1. 家族信託からの給付: 月額10万円
2. 生命保険金: 1,500万円
3. 遺言による遺贈: 500万円
4. 遺族年金: 月額約8万円(条件を満たす場合)
【生活費の管理方法】
美代子さんは受け取った生命保険金1,500万円と遺贈500万円(合計2,000万円)を計画的に管理し、家族信託からの月額10万円と併せて安定した老後生活を送ることができます。
【信託期間の見通し】
• 信託財産2,500万円÷月額10万円=約20年10ヶ月の給付期間
• 美代子さんが68歳の時点で、88歳頃まで家族信託からの給付が継続される計算
【美代子さんの月収構成(健太さん死亡後)】
• 家族信託からの給付:月額10万円
• 遺族年金:月額約8万円
• 合計:月額18万円
• プラス: 2,000万円(生命保険金1,500万円、遺贈500万円)による生活費補填・緊急時対応
事実婚における遺族年金の注意点
事実婚の場合、遺族年金の受給には以下の条件を満たす必要があります。
• 生計同一関係の証明
• 事実上の婚姻関係の証明
• 生計維持関係の証明
美代子さんのケースでは、8年間の同居実績があり、これらの条件を満たしているため遺族年金を受給できる見込みです。この設計により、事実婚という法的制約がある中でも、美代子さんの老後生活を安定的に保障することができます。
家族信託設定時の実務的なポイント
受託者の選び方
家族信託の成功は、適切な受託者選びにかかっています。
親族を受託者にする場合
• メリット:費用が安い、家族事情をよく理解
• デメリット:財産管理の専門知識不足、責任が重い
選択の目安
• 信託財産3,000万円以下:信頼できる親族
• 信託財産3,000万円以上:専門家との協働体制
税務上の注意点
設定時の課税回避
• 委託者と受益者を同一人物にする
• 配偶者やパートナーとの共同受益は設定しない
(贈与税が発生する可能性があるため)
死亡時の税務対策
• 配偶者控除の最大活用
• 生命保険の非課税枠活用
家族信託以外の選択肢との比較
成年後見制度との違い
家族信託 | 成年後見制度 | |
開始時期 | 元気なうちから | 判断能力低下後 |
財産管理の自由度 | 高い | 制限的 |
費用 | 設定時のみ | 継続的 |
裁判所の関与 | なし | あり |
本人の意思反映 | 事前に設定可能 | 困難 |
遺言書との違い
家族信託 | 遺言 | |
効力発生 | 生前から | 死後から |
認知症対策 | あり | なし |
継続期間 | 長期間可能 | 一回限り |
まとめ:シニア世代の新しいパートナーシップに安心を
シニア世代の再婚・事実婚は、若い頃の結婚とは異なる課題があります。お互いの老後生活、認知症リスク、複雑な家族関係への配慮が必要な中で、適切に設計された家族信託は包括的な解決策を提供します。
家族信託が解決する主な課題
• 認知症になっても財産管理が継続される安心感
• パートナーの生活費が確実に確保される仕組み
• 税負担を最小限に抑えた財産承継
• 複雑な家族関係のバランスを保った財産管理
• 透明性のある財産管理による家族間の信頼構築
重要なポイント
• 配偶者やパートナーとの共同受益は避ける
• 配偶者控除や生命保険の非課税枠を最大活用
• 専門家チーム(税理士・司法書士等)との連携
再婚では前妻の子どもたちとの関係に配慮しながら新配偶者の生活を保障し、事実婚では法的保護の不足を補完して実質的な夫婦生活を支えることができます。適切に設計された家族信託は、税務効率と家族の安心を両立させる現代的な解決策なのです。
よくある質問
Q: 家族信託の設定費用はどれくらいかかりますか?
A: 信託財産の規模にもよりますが、一般的には80万円~150万円程度です。ただし、適切な設計により数百万円の節税効果が期待できるため、十分にペイする投資と言えます。
Q: 共同受益者にすると何が問題ですか?
A: 共同受益者にすると、設定時や受益権変更時に贈与税が発生するリスクがあります。また、給付の優先順位や医療費負担の判断等の利益相反も生じやすくなります。
Q: 事実婚でも遺族年金はもらえますか?
A: 条件を満たせば受給可能です。生計同一関係、事実上の婚姻関係、生計維持関係を証明する書類の準備が重要です。ただし、法律婚より受給要件が厳しいため、家族信託による生活費確保の重要性が高まります。
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